モチベーション0(ゼロ)のストラテジー(戦略)

「勉強する気になれない」「受験したくない」「学校や塾へいきたくない」「何にもしたくない」「でも、やらないといけない・・・」 こんな状態に陥ったことはありませんか。合格をめざしてがんばる子どもたちとかかわってきた経験から、このような状況に出会うことはめずらしいことではありません。特に、人生の一大イベントである受験の結果が与える影響は絶大です。このようなとき、本人も周囲もどのように対処すればよいのかとまどいますね。

かくいう私も、先生として子どもたちのやる気を高めるプロでありながら「今日は授業したくないなあ」とか「校舎へ行くのはめんどうだなあ」と感じることは少なくありません。自分で進んでやっている研究でさえそうです。「研究やりたくないなあ」という気持ちになるとなかなか体が動かない。教育学を究めることは好きだし向いてないとも思っていないのですが、そうなることがたびたびあるのです。

もちろん、人間誰でも気分の浮き沈みはあります。しかし、モチベーション(やる気)が下がったときでも安定した業績を残し、自らの力で回復させていく力は、これまでの努力を成果につなげていくためにとても重要だと思います。ですから、このような心境に陥るたびに、また、そのような心境の生徒と向き合うたびに、自分のこころと重ね合わせながら、どうしてそうなるのか、どうすれば解決できるのかを考えてきました。そうしているうちに、なんとか実践可能で、それなりの成績が出せる方法にたどり着きました。ここではそれを説明します。ポイントはたったの3つ。それらがうまく働けば、モチベーション0(ゼロ)でもそれなりの効果を上げ続けられます。

スモールステップ


一つ目のポイントは、やれば必ず成果を残せる小さい目標を設定することです。モチベーションが低下する最大の要因はやはりストレスでしょう。一生けん命やっていることを誰かから否定されたり、テストでうまくいかなかったりすると、それによって生まれた悲しみやつらさはストレッサー(ストレス刺激)として働き、モチベーションを限りなくゼロに低下させます。とりわけ、自分を100%否定する不合格通知の威力はすさまじく、モチベーションを破壊するといっても過言ではないでしょう。不合格通知とは「お金をもらっても、あなたを必要としていません」という宣告ですから。まさに、チャレンジした勇気、高まった合格への期待を一瞬にして打ち砕く雷(いかずち)のようなもの。そうなると、周囲の励ましは焼け石に水。さらに、やってきたことにダメだしされれば気持ちはさらに真っ黒になって、これからどこへ進んだらよいのか途方に暮れてしまいます。

ところが、モチベーションはもう少しやっかいです。はっきりしたストレッサーがなくても低下することがあるからです。たとえば私は、大きな仕事に精力的に取り組むと、たとえ結果がうまくいったとしても、モチベーションがガクンと下がることがよくあります。うまくいったから次もがんばるぞ、とはなかなかならないのです。うまくいかずに下がるのならまだわかるのですが、うまくいってもモチベーションはダウンする。どうしてでしょう。おそらく、成功から得られる報酬を上回る精神的な苦痛や身体的な疲労がいやされていないからだと考えられます。心理学では燃えつき症候群(バーンアウト)という現象として知られています。

はっきりしたストレッサーがあるかどうかにかかわらずモチベーションがダウンしたら、それを乗り越えるために、私はやれば必ずできるかんたんな目標に切り替えることにしています。具体的には、プリントの枚数とか、書類や身の回りの整理とか、後回しにしていた作業とか。たとえば、「計画表」や「やることリスト」をていねいに作るだけでもオッケーです。大切なことは、あれやこれや考えずに、やれば必ずできること、形に残る仕事にとりかかることです。ただし、決してよくばってはいけません。たとえ最終目標が大きくても、たとえ親や先生、友だちの期待が大きくても、遅れが焦りを募らせても、最終目標の優先順位を割り切っていったん下げて、行動計画を大胆にチェンジするのです。

一見すると現実逃避のように映るかもしれませんが、教育学でこのような手法をスモールステップ(目標を細分化して小さな目標を達成する体験を積み重ねながら、最終目標に近づいていく手法)と呼んでいます。「高い階段」は昇ることがむずかしいので、足を踏み外せばなかなか先に進めません。しかし「小さな階段」は着実に上がることができるので、ひとまず進むことができます。「急がば回れ」ということです。ですから、スモールステップはつまずきやすい難しい学習ターゲットで効果につながりやすいとされています。

スモールステップには、大きな目標に着実に近づけてくれるという方法論的な効果以外に、心理的なメリットもあります。それは達成感です。それほど難しくない仕事でも完成できれば達成感がわくものです。子どもがあちらこちらにシールを貼るのは0才から2才の感覚運動期の達成感からだといわれていますが、中高生や大人だって、今まであやふやだった内容を勉強し直して整理したり、完全に覚えきれたりできれば達成感が得られます。するとその時、脳内にドーパミンという物質が分泌されます。この物質は「快感ホルモン」という別名をもち、「やったー」という感情が「うれしい」「楽しい」という感情を生み出します。「やる気スイッチなんてどこにもない。だから、やる気がでない。」なんていう人もいますが、もしあるとすれば、達成感がもたらす快感ホルモンの調整のしくみでしょう。その真実はさておき、モチベーションがダウンしたときのスモールステップには、教育学的にも心理学的にもメリットが期待できるのです。






習慣をつくる


二つ目のポイントは、学習する習慣をつくることです。信念対立を研究している作業療法学者の京極真先生は「習慣とは、半自動的に行動できる状態のことで、本人のモチベーションに関係なくやっちゃう行動」と説明しています。つまり、自分のやる気や意思に関係なくやり続けてしまう、きまりきった行動のことです。たとえば、毎日学校へ行き、授業を受けて、係の仕事もやって、帰ってきたら宿題をやる、という、めんどうくさいかもしれないけれど、誰かにやれといわれなくても当たり前のようにやれる行動のことです。

ところが、モチベーションがダウンした状態で決まりきった行動を続けることは意外にむずかしいです。その理由は、決まりきった行動をしたくないという願望が生まれやすいからです。今うまくいっていないわけですから、「なぜ学校へ行く必要があるのか」「なぜ宿題をやらないといけないのか」「どうして数学をやらないといけないのか」というような決まりきった行動を否定する問いを立てることでやりたくない自分を肯定しようするのです。わたしも子どものころにはいつもそうでした。今でもそれに近い疑問が湧き上がってくることがあります。そうなると、そのような否定的な疑問にどのように向き合うべきかという新たな問題が生じます。

そのようなとき私は、そんな大それた問題は今の自分が考えるべき問題ではないと冷静に判断するようにしています。まだやり始めて日が浅かったり、今の活動の場の中でちっぽけな存在だと思えたりするときはなおさらです。そう考えるようになったのは、これまで多くの人たちが真剣に考えてそうしようと決め、それに対する反論が少ないという事実が、演繹的にその蓋然性を示していると判断できるからです。

ノーベル賞を取るような立派な学者が学校の勉強を批判したというニュースを耳にすることがあります。一流大学を出て偉業を成し遂げた彼らが発したそのようなコメントは、逆説的であるがゆえにマスコミが注目して採り上げるのだと思いますが、よく調べてみると、学校の勉強の不十分さや我が国の教育制度を憂いているだけで、学問が不要だとは決していっていません。改善の余地は大いにあると思いますが、人類の歴史は教育の重要性を支持する歴史といってもよいくらい、学ぶことは重んじられ、今も続いています。人間社会で生きていく以上、その枠組から逃れることはほぼ不可能でしょう。ですから、決まりきった行動をやるんだと思い切って決心してしまったほうが今の段階では有利です。いいかえれば、決まりきった行動というのは、みんながとりあえず疑問を抱く必要がないと認めている行動なのです。

それでは「半自動的」とか「決まりきった」行動にはどのようなメリットがあるのでしょう。それはあれこれ考えなくても、迷うことなく自律的な行動を促してくれることが挙げられます。やる気がわかないという心理が行動に影響を与えてしまう理由は、やらないという選択肢が心の中に潜んでいるからです。しかし、習慣化してしまえば、当たり前のことに時間を費やして頭を悩ませることはむしろ無駄です。しかも、一般的に当然と考えられる行動からそれてしまえば、予期せぬ批判や災難が舞い込んでくる可能性さえあります。たとえば、勉強しなければ宿題を満足にこなすことはできないですし、テストで失敗する可能性は高まります。それだけでなく、友だちからバカにされたり、親や先生から叱られたりするかもしれません。

このように、やる気がないときに学習する習慣をつくることは、不要な悩みや疑問からあなたを解放し、正しい道からそれないようにガイドしてくれるという点で役に立つのです。何も悩まず習慣的に行動するだけで身の安全が保障されるなら、そんな楽なことはありません。学生とは学問をする生徒、受験生は入学試験を受けようとする学生のことです。毎日何時から何時までやる、と決めて行動することは当然といえば当然。特に、自分から進んでやらない、後回しにしがちなことを習慣化することは有効です。必要になったら始めようとか、やる気が出たらやってみようとかとモタモタしていると、チャンスを逃してしまうだけでなく今乗っているレールからはじき出されてしまう可能性もあります。ですから、どんなにモチベーションが下がっても、過去の失敗にくよくよすることなく、内容ややり方は二の次でよいので、まずは時間を決めてコツコツやることをおすすめします。

まさに「下手の考え、休むに似たり」 得意げに筆を進める私も、論文を書いたり文献を精読したりするのが好きではないので、習慣化にチャレンジする必要性を感じています。京極先生曰く、三か月続けばモノになるとのこと。その言葉を信じてがんばりましょう。







仲間ワーク


三つ目のポイントは、仲間とともに行動することです。大活躍しているプロのスポーツ選手でも、大学教授のような勉強のプロでも、ほぼ例外なくチームや組織に所属して志が近い仲間と行動しています。それは、私たち人間は一人では成長することができないことを知っているからでしょう。そんなにすごい人なら、わからないときや困ったときだけだれかに頼って、あとは自分の思うがまま、好きなままにやったほうが有利なのではないかと考える人もいると思います。ところが、一流と呼ばれる人のほとんどはそういう行動をとりません。むしろ、孤立や孤独を危険視し、そうなることを避けようとしているように見えます。強化合宿や学会に積極的に参加してふだん会えない人と交流しようとするのはそのためでしょう。「人は人の中でしか育たない」とよくいわれますが、卓越した技能を身につけたプロたちは仲間の重要性をむしろ自任しているかのようにみえます。

それでは、仲間とともに行動することにはどのような効果があるのでしょうか。一つ目の効果は、形としてわかりにくいことや今の自分にとって必要なことを、仲間とのかかわりから学べるということです。レベルが違いすぎる人から正しいことをたくさん教えてもらっても、それを完全に吸収することはおそらく無理です。しかし、レベルが近い人とかかわっていると、正しいか正しくないかは別にして、その差を埋めやすいという傾向があります。さらに、レベルが近い人が最近身につけた能力は、今のあなたにとって貴重な能力である可能性が高いのです。つまり、レベルの差や身につける順番が大切だということです。

心理学ではこのレベル差のことを「最近接発達領域」といいます。関心の高い研究領域なのですが、その差は相対的で複雑なため把握することはなかなか困難です。そのため、明確な効果を示しにくく有効な指導方法も確立されていません。ですから、頭ではわかっていても実践しにくい理論の一つだと感じています。ところが、力を伸ばしてきた人の多くはそれに気づいているようです。伸びる子のほとんどは、たとえテストの点数で差があったとしても、志や境遇が近い人とのかかわりからその差を吸収したり、完成させたりする力を磨きながら学ぶ力を高めていることが多いからです。一方で、ひとりよがりな行動をしやすい子はどうしても伸び悩む傾向があります。学ぶ力が育ちにくいからです。

仲間とともに行動することの効果は認知発達的なものだけではありません。それは、安心感や喜びを与えてくれるということです。人間が良好な関係にある人といっしょに行動したいと感じることはほぼ疑いないと思います。このような心の働きを(人間)関係志向性といいます。私が過去に行った研究では、関係志向的活動は勉強へのやる気(学習動機)を高めることが示されました。つまり、仲間といっしょに勉強するだけでモチベーションがアップするのです。

さらに、友だちのことを思いやり、助け合ったりすると脳内にセロトニンという物質が分泌されます。セロトニンは「しあわせホルモン」という別名をもち、安心感を与えるだけでなく、不安や怒りをやわらげる働きがあります。このように仲間となかよく行動することは、モチベーション0でも活動を続ける元気を与えてくれるだけでなく、めっちゃへこんだ状態や疲れてくたくたな状態から回復させてくれる効果が期待できるのです。

反対に、孤独になるとセロトニンが減少するため、ひどく落ち込んだり、人を攻撃したりする傾向が強くなります。そうなると、やる気がでないと嘆いたり、何かのせいだ、誰かのせいだと非難して勉強や受験を投げ出したり現実から逃げたりするという行動を引き起こしやすくなります。結果としてモチベーションはマイナスに転じてしまい、これまでやってきた勉強や受験、友だちさえも否定することで心の安定は図ろうとするようになります。すると、望んでいた学業成績からはますますかけ離れ、さらに孤立するという悪循環をもたらすのです。この段階になると、周りからはとてもめんどうな子となってしまいますので積極的な支援を得られにくく、よほど素直に心をいれかえないかぎり、事態が好転するきっかけを失います。さらに深刻になると、非行に走ったり心が病んだりする可能性も高まってしまいます。

やる気がほとんどなくなったとき、もっとも気をつけるべきことはマイナスのやる気に転じさせないことです。マイナスのモチベーションは周りに敵を作るだけでなく、これまでがんばってきた自分、輝いていた自分を否定して裏切ることにつながりかねないからです。そうなってしまわないように、やれば必ず成果を残せる小さい目標を設定し、学習する習慣をつくり、仲間とともに行動することをおすすめします。そうすれば、モチベーション0でもある程度の実績を残せます。もしかすると、飛躍的に進歩を遂げるブレイクスルーが訪れるかもしれません。

どんな失敗も新たな一歩です。成功した人の多くは「成功とは、成功するまであきらめないこと」だといいます。本当の失敗とは、成功する前に行動することをやめてしまうことかもしれません。

【たしかめてみよう】


1 スモールステップの計画を立てる 2 計画を実行する時間を決める 3 いっしょに行動する仲間をみつける この3つがそろえばあなたは立派なゼロモチベーション学習者です。辛抱強く、やる気の回復や状況が変化することを待ちましょう。

(あやべひろあき)




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